作り手から見た茅葺の魅力と課題、茅葺職人・相良育弥さんインタビュー

「茅葺職人」と聞くと、伝統技術を受け継いでいる匠のようなイメージがあり、「自分とは縁遠い」と思うかもしれません。そんな茅葺職人が「もっと身近な存在になってくれたら」と話すのは、「株式会社くさかんむり」代表の相良育弥さん。

学生のインターン採用や茅を使ったアートワークにも取り組むなど、茅葺業界を盛り上げようと試みる相良さんに、茅葺職人の魅力や、業界が抱えている現状と課題などについてお伺いしました。

茅葺職人の魅力とは

今回取材でお伺いした葺き替え工事を実施されている現場

相良さんは神戸市北区淡河町を拠点に、茅葺屋根の葺き替えや補修などに携わっている茅葺職人。現在はアルバイトを含めて10名ほどのチームで仕事を行っています。

仕事の魅力について伺うと、「茅葺職人でよかったと思うのは青空の下、のどかな田舎で仕事をできることですね。この環境で働いていると、小さな悩みも『まあ、いいか』と思えるようになりますよ」と、笑顔を見せる相良さん。

また、そのほかの魅力について「建築資材がすべて土に還るところ」とも答えてくれました。

「建設業界では産業廃棄物による環境汚染が問題になりますが、茅は古いくずを肥料にできますし、竹や木の切れ端は燃料にできます。いま話題のSDGs(持続可能な開発目標)にもあるように、サステナビリティな取り組みの一つでもあるところに魅力を感じますね」

茅葺職人の現状と課題

相良さんによると、日本の茅葺職人は長年人手不足に悩まされているのが現状なのだそう。

例えば、九州よりも国土が小さいオランダには、茅葺に関わる建設会社が400社ほどあり、茅葺職人は1,200人以上。1990年代に茅葺に関する法改正を行って市街地でも茅葺屋根を建てられるようになり、今でも年間1,200棟の新築が建っています。

それに対して日本の茅葺職人は200名ほど。日本はオランダよりも茅葺屋根の家が多いにも関わらず、職人の数には大きな差があります。さらに茅葺屋根の家は維持に手間とお金がかかるため、日本では徐々にその数も減ってきているようです。

そんな現状を打破するため、相良さんは茅葺に関するPR活動にも力を入れています。ワークショップを開いたり、茅や草を使ったアート作品をSNSで発信。違った角度からのアプローチによって、アーティストや大学生など、さまざまな層からの反応があったことは「意外でした」と語ります。

「今はいろいろな職業があるので、その中で茅葺職人に興味を持ってもらうためには、知ってもらう機会を増やすことが大事だと思うんです。茅を使ったアート作品を作ったり、ステージ装飾に携わっているのも、そのきっかけ作りの一つ。インターンで来た大学生にも積極的に話しかけて、彼らが何を求めているのかを知り、それを活かしたPR方法を考えて茅葺に興味を持ってもらうための入り口を作っています」

茅葺職人を目指す若者の人材育成にも注力

最近は茅葺に興味を持ち、業界へ就職する20代の職人もいますが、2年ほどで辞めてしまう人が多いのが現状。相良さんはその課題を解決するため、働きやすい環境を整えるのはもちろんのこと、「きちんと教える」指導を心がけています。

「昔の徒弟制度のような『技は見て盗め』という教え方は、今の時代には通用しないと思っています。説明をしながら教えた方が、成長のスピードも早いですから。そうやって時代によって、その形は変わっても若い世代の茅葺職人に技術を受け継いでいくことが大切だと思っています」

相良さんが現代に合ったやり方に変えた指導の中に、「角付け」という仕事があります。

「軒まわりへ新しい茅を葺いていく『軒付け』の中でも、『角付け』は、僕の時代だと3年は修行を積んでからでないとやらせてもらえませんでした。責任感が伴いますが、角付けを任されるのがこの仕事の醍醐味の一つ。だから、僕はあえて新人に角付けを任せることもあります。もちろん先輩たちでカバーはしますが、信用して見守ることも指導の上で大切なことですよね」

昔は茅葺しかなかったので、茅葺職人は『屋根屋さん』と呼ばれていました。「今はその数も減り、珍しい存在になっていますが、これから茅葺職人が昔のように『屋根屋さん』と呼ばれるような存在になれたらいいですね」と語る相良さん。田園風景が広がる空の下、仕事仲間と一緒に作業に打ち込む姿は楽しそうで、生き生きとしていたのが印象的でした。

※撮影時のみマスクを外して撮影させていただきました。

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