「かやぶき民家の音楽会とおしゃべり」参加レポート

秋が深まるのどかな田園風景が広がる神戸市北区道場町で11月6日の午後より「かやぶき民家の音楽会とおしゃべり」というイベントが開催されました。
現在も住まいの茅葺き古民家「番匠家住宅」を会場に関係者や地域の方々、学生など一般参加者20数名が集い、古民家での快適な暮らし方をはじめ、茅葺き屋根の資材である茅や、神戸市内の文化財をめぐる現状などについてのディスカッションと、3つの木管楽器からなるアンサンブルコンサートを楽しみました。

<番匠家住宅について>

2021年に神戸市指定文化財の指定を新たに受けた番匠家住宅は、三田市との市境に近い塩田八幡宮の西にあり、有馬川北岸の水田を前に、丘陵を背にして堂々とたたずむ藁葺き屋根のお屋敷で、主屋・つなぎ・蔵など3棟と門や土塀などが指定文化財となっています。

北神戸〜三田に多く見られる「摂丹型」住宅

母屋は今から200年以上も遡る18世紀後期に建立されたと推定されていて、神戸市北区から三田エリアに多く見られる「摂丹(せったん)型」民家の典型的な建物で、前面に水田が広がる伝統的な農村風景は見る者に懐かしさを感じさせてくれます。
番匠家はその昔、木造建築に携わった建築の匠の家系であったとのことで、表から見る威容もさることながら、邸内から見渡す景色も素晴らしいこだわりが感じられます。

<「お話いろいろ」>

このイベントの世話役でもあるNPO法人神戸茅葺ネットワークの大前さんのご挨拶を皮切りに、神戸市文化財課や神戸市景観政策課など行政関係の方々や、番匠家のご当主である番匠敦子さん、全国の茅葺き屋根の葺き替えを手がけられる淡河くさかんむりの阿部さんや他、建築設計や古民家リフォームに携われる方など、多方面の方々がそれぞれのテーマを持ち寄りながらトークセッションが行われました。

番匠敦子さんは、屋敷に続く道のアスファルト舗装などを提案されたこともあるそうですが「この家には砂利の小径がよく似合っていると思う」と、あえて整備は見送ったそうです。現代的なバリアフリー住宅にはない古民家ならではの苦労がありながらも、それらを上回る“心の快適さ”を感じながら、綿々と受け継がれる家を守っているとお話されていました。

茅葺き屋根の葺き替え職人として第一線で活躍されている株式会社くさかんむりの阿部さんは、次世代の茅葺屋根を担う新しい世代の職人が増えつつあるという現状や、新しい建築資材、素材として茅を見直すなど温故知新での取り組みが今後は必要と考えられているなど、未来を見据えた発表をされていました。

中でも遠方からのお客様として、岡山県真庭市からも行政関係者が参加されていました。岡山の蒜山地区には良質な茅が採れる環境にある一方、山焼きなどのメンテナンスの担い手不足が課題であったそうですが、近年では持続可能な資源としての茅が評価され、神戸や京都などの茅葺屋根の資材としての供給を試みるなど新たな繋がりや展開が期待されているようす。神戸に残る茅葺家屋を通していろいろな出会いや協業が生まれていることに驚きました。

<田園に優しく響いた木管アンサンブル>

柔らかな日差しと木管楽器の音色が心地よいコンサートはお話の前後を挟む2部構成で開催されました。
演奏は神戸市北区出身のフルート奏者である山中淳史(フルート・バスフルート)さんをはじめ、久保絵里乃さん(フルート・ピッコロ)、小出ゆう子さん(オーボエ・イングリッシュホルン)のいずれも第一線で活躍される3名からなるアンサンブルでした。

第一部はモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ序曲」やバッハのアリア「羊は憩いて草を食み」など、管楽で聴き馴染みのあるクラシックの名曲を、第2部では日本民謡をはじめ、イギリス民謡、イタリア民謡など世界で親しまれている曲を披露し、最後は誰もが知っている「見上げてごらん夜の星を」をゆったりと演奏し、アンコール曲を経て終幕を迎えました。
あたかかな木造りの家屋の中での演奏は、コンサートホールにはない独特の音の響きが感じられ、来場された方々との距離も近く和やかな時間となりました。

<イベントこぼれ話>

当日は関係者の方々が準備で忙しく動き回っておられる午前中から会場にお邪魔したのですが、これといったお手伝いができずにフラフラと近隣の田んぼを見てまわったりしていました。お昼に地域の方々の手作り弁当をいただきましたがほとんどが北区の食材で作られているそう。野菜の煮物や甘い栗ご飯など、地域でとれる秋の恵みを関係者一同しばし堪能しました。

Back