茅葺民家のある神戸市北区で、豊かな暮らしを営む

市街地から30分ほどの場所にありながら、のどかな田園風景が広がる神戸市北区。ここに数多く残されている茅葺屋根の古民家は、古き良きものとして人々に愛され続けています。

古き良きものとして残されてきた茅葺民家や北区の魅力とは? ベーグルと蒸しぱんのお店「はなとね」店主の村上さんと、神戸市全9区移住プロジェクトを行ったクマガイタツロウさんにお話を伺いました。

<ベーグルと蒸しぱんのお店「はなとね」店主 村上敦隆さん>

神戸市北区淡河町(おうごちょう)に建つ茅葺屋根の古民家。ここはベーグルとスチームベーグル(米粉の蒸しぱん)を販売する人気のお店「はなとね」です。店主の村上敦隆さんは、西宮市から神戸市北区に引越してきたのだそう。

茅葺民家の良さ・面白さをシェアしたい

村上さんが北区を訪れたのは、淡河町で子育てをしたいと思ったのが始まりです。もともとネット通販メインでパンを販売しており、お店を構える予定ではありませんでした。

「でも紹介された茅葺民家を見たら、こんなに豊かな自然に囲まれて受け継がれてきたすてきな場所を、自分たちの家としてだけ使うのはもったいないなと……シェアしたいと思って、住居兼お店をオープンすることにしました」と語ります。

茅葺民家は暑い夏を快適に過ごせるような工夫が凝らされた建物である反面、冬は寒さが厳しいのが難点です。しかし、村上さんは不便さの中にも魅力を感じています。「春を待ちわびながら、ストーブを炊いた部屋にみんなで集まって過ごす。その時間も面白いと思うんですよね」。

揺らぎも含めて「はなとね」の味

ベーグルを選んだのは、卵と牛乳を使わないためシンプルで誰にでも親しみやすいパンだから。さらに小麦が食べられない方でも楽しめるよう、米粉のスチームベーグルを開発しました。

ただ、茅葺民家では温度や湿度の管理が難しく、季節によって生地の食感に違いが生まれます。最初は、パン職人としていつでも変わらないものを提供したい、という思いにとらわれていました。

「今はその揺らぎも含めて『はなとね』の味なのかな、と思って出しています。それも面白いかなって」と笑って話すその表情を見ると、茅葺民家での営みを心から楽しんでいることが伝わってきました。

茅葺屋根の風景を守り、受け継いでいく

次の世代へとバトンをつなぎ、茅葺屋根の風景が残っていくこと。それこそが村上さんの望みであり、働く意味やモチベーションとなっています。

「お店は今後もできる限り続けていきたいですね。北区での新しい生き方のひとつとして楽しんでもらえたら……こんなところで暮らしてみようかな、と考える人が一人でも二人でも増えてくれたらと思います」。

村上さんが抱くその想いはきっと、茅葺屋根の風景がある北区の未来を明るく照らしていくことでしょう。

<「ワタナベフラワー」ボーカル クマガイタツロウさん>

ロックンロールバンド「ワタナベフラワー」のボーカル・クマガイタツロウさんは、神戸市全9区に住んで街の魅力を発信するプロジェクトを行ってきました。北区には2021年7月の1か月間住んでいたのだそう。

どこよりも帰るのが楽しみな場所、北区

まずは北区の感想を伺ってみると、「バイクに乗って道を走っているだけで楽しい、最高! こんなに家まで帰るのが楽しみだった場所は他にないですね。仕事終わりはいつも『早よ帰ろーっ!』とワクワクしていました(笑)」と熱のこもった言葉が返ってきました。

北区には有馬温泉をはじめとした観光スポットもありますが、クマガイさんのおすすめは「なんてことない道を走ること」だと言います。「北区に入っていく瞬間、風がふっと変わるんですよ。それがものすごく気持ち良い」。

特に夏の日中に茅葺民家や田園ののどかな風景が広がる中を走り、風や草木の揺れる音に包まれると、バイクや車を停めて北区の空気をじっくりと感じたくなります。夕陽があまりにもきれいな日は、スマートフォンやパソコンを置いて景色の美しさに見惚れていたこともあるのだとか。

朝採れ野菜がおいしい幸せ

景色だけでなく、食べものがおいしいのも魅力のひとつです。「朝採れの野菜を買ってきてフライパンで焼くだけでうまい! ビールをひと口クイッと飲んだら、もうめちゃくちゃ幸せなんですよ!」と力説するクマガイさん。終始目を輝かせて笑顔で語る様子から、北区への熱い思いがひしひしと伝わってきます。

生活にきちんと目を向けられる豊かさ

交通の便や商業施設の少なさから、不便だと言われることもある北区。しかし、不便さの中には「日々の生活に目を向けて、きちんと感じ取る」という豊かさがあります。

そんな暮らしができるのは畑があり山があり、茅葺民家が建つ風景が当たり前のように生活の中に存在する、神戸市北区ならではなのかもしれません。

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