特集「未来につなぐ、茅葺民家」

数多くの魅力があふれる街、神戸。その一つに「古き良きものを残していく文化」があります。旧居留地や異人館などの近代建築だけでなく「茅葺民家」が北・西区を中心に数多く残っています。しかし、茅葺民家は年々減少。茅葺民家を保存し、市民の皆さんにも親しみを感じてもらうために、これからどのような取り組みが必要になるのでしょうか。茅葺職人の相良育弥さんと久元市長、ルイーズ広報専門官が北区の内田家住宅で神戸の茅葺民家の未来について考えました。(平成28年10月号広報紙KOBEより)

神戸の茅葺民家

久元
国内の茅葺民家は少なくなっていますが、一番多く残されているまちは神戸なんです。神戸というと港があってハイカラな街並みや六甲山というイメージが強いですが、実は茅葺民家が多くあるということを、市民の皆さんにもぜひ知っていただきたいと思っています。まず、この座談会をしている内田家住宅はどんなところですか。

相良
小部地方の庄屋(村の行政事務を取り扱う人)の家ですね。鈴蘭台一帯が小部村だったころのシンボルです。「こんなところに茅葺民家が残っているんやね」とよく言われるんですけど、元々村があったところにニュータウンができていて、マンションなどが建ち並ぶ中に茅葺民家があることも、とても神戸らしい風景かな、と思いますね。

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久元
私は50年ぐらい前にこの辺りに住んでいて、虫を捕るなどしてよく遊んでいたんです。当時はこういう茅葺民家が何軒かあったことを覚えています。ここは改築もして、地域の皆さんに非常に丁寧に管理していただいて、とても素晴らしいです。屋根はどのくらいの期間で葺き替えるのですか。
相良
神戸は気候が穏やかで、雪もあまり積もらないので、20〜30年ごとに手入れをすればずっと維持していけますね。ルイーズさんは茅葺民家を見たのは初めてですか。
ルイーズ
日本ではここが初めてですが、イギリスでは私の母が住んでいた村にもあったので見たことがあります。イギリスは石の家の上に茅葺の屋根があるんですよ。

海外では茅葺民家が人気!?

久元
私は、イギリスは石の文化だと思っていたので、茅葺民家があるということを全く知りませんでした。
相良
イギリスは日本と違って、ススキではなく小麦のわらを使っています。パンをよく食べるので小麦をたくさん作っていますからね。身近でたくさん手に入る草を使って屋根を葺くということが茅葺の根本なんです。
久元
イギリスには今もあるんですか。
ルイーズ
ありますね。30年ほど前から茅葺民家の人気がすごく高くなりましたが、維持費が掛かるので高額です。ロンドンに住む人にとって、郊外の茅葺民家に住むというのは夢のようなことなんです。

地域に合わせた屋根を葺く

相良
茅葺民家は地域性がとても豊かです。「方言の数だけ屋根のバリエーションがある」といわれるほど細かく分かれています。北区の中でも地域によって屋根の様式が少し変わるんですね。気候や風土も影響していて、屋根の材料になるススキの生育具合だけでなく、雨や雪の量によっても異なります。昔は村ごとに茅葺職人がいて、その土地の特性を知った人が屋根を葺いていたんです。
久元
そのような多様な茅葺民家を保存しながら住んでいくために、生活しやすくリフォームすることもできるんでしょうか。
相良
時代ごとに生活様式が変わっていくので、住みやすいように変えていけばいいと思います。
久元
茅は火に弱いと思うので、防火対策を進めていくということも必要でしょうか。
相良
日本はそのあたりがすごく遅れています。約20年前から新築の茅葺民家が認められているオランダでは、茅の下に耐火ボードを敷いたり、茅葺専門の消火チームを各消防署に配置したりするなど、防火対策を整えています。これから日本もヨーロッパの例に学びながら、日本らしい在り方で防火対策を取って、茅葺の弱点をなくしていけたらと思います

〝住む〞以外の選択肢を

久元
最近、ほかの都市では茅葺民家を民宿やレストランにするなど、さまざまな活用をしていますが、神戸でも可能なのでしょうか。
相良
神戸の立地や環境の良さに多くの人が関心を持ち、神戸でそういう取り組みをやりたいという声が僕のところにも多くあるんです。しかし、法律などの関係でお断りしているのが現状です。活用ができるようになれば、六甲山の裏側がもっと面白くなるんじゃないかと思います。
久元
北・西区をより魅力ある地域にしていくためにも、茅葺民家を活用するということができないか、考えていきたいと思います。
ルイーズ
イギリスでは茅葺のパブ(酒場)もあるんですよ。伝統的なイギリスの茅葺で、店内もすごくいい雰囲気です。神戸も民家だけでなく、レストランなどの利用の仕方があるのではないかと思います。
久元
今、茅葺民家は減り続けていて、このまま何もしないとさらに減ってしまいます。みんなで知恵を出し合って、保存と活用について考えれば、今後、茅葺民家に憩う、楽しむということが、すごく価値のあるライフスタイルになる可能性があると感じました。